法華経       八巻

紙本墨書 縦25.7〜 25.9 横813.5〜1141.1
平安後期(12世紀) 〔巻五・八は明治18年(1885)〕

妙法蓮華経すなわち法華経は、数ある経典の中でも、釈迦如来の教えの精髄が説かれているとされ、今日まで幅広く信仰を集めてきた。
本品は、雁皮紙に銀泥で界線を引き、銀の切箔を天地と紙背にちらし、雲母を全面にほどこした装飾経である。光明皇后筆と伝えられるが、奈良写経をテキストにして平安時代後期に端正に書写された上代様の代表的作品である。文中の加筆訂正は、書写時とそう隔たらない時期のものと思われるが、文の区切りを示す朱点や部分的にみられる朱の仮名書きは、鎌倉時代にほどこされたものと思われる。各巻末には、願主として片岡橘兵衛尉信隆の名がみられるが、平安時代末期に伊予守・修理大夫などを歴任した藤原信隆(1126〜1179、母は橘家光女)であるかどうかは疑問であり、むしろ室町時代の人物と考えられる。
長保寺には数多くの法華経が奉納されているが、本品はその中でも年代的に最古のものである。明治の宝物目録によると、明治5年に徳川茂承が長保寺に寄付したものであるが、八巻のうち巻五および巻八は、明治18年に新調・増補されている。



和歌山県立博物館「長保寺の仏画と経典」より